連載記事
テーマに沿って10名の建築家・建築士が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第2弾のテーマは「完成までのプロセス~人との出会い~」です。
※毎週火曜日に掲載
福見建築設計事務所
テーマ vol.02完成までのプロセス
~人との出会い~
「芯はぶれずに柔軟な発想を」
当然のことながら、ひとりで建築をつくり上げることはできません。
まず施主の要望があり、敷地や用途などの諸条件と建築基準法などの法的条件、その土地の環境や成り立ちの把握、予算の制約などを詰めながら設計図を描いていきます。
それらの問題をクリアにしつつ、次に実際の工事を担当する施工会社や現場監督さん、職人さんなどと意見を交わしながら一つの建築をつくりあげていきます。一つのプロジェクトの完成までには、多くの人の技術、知識、経験、努力が必要になってきます。
様々な条件が複雑に絡み合う中で、理想とする建築をつくっていくことは非常に困難な作業になります。とはいえ、安易な考えで簡単な方へと進んでいってしまうと魅力のない建築が出来上がってしまいます。
熟考を重ね、これがベストだと提案したものが、施主の考えと食い違う時があります。例えば、建物を改築するとなった場合、新しいモノに対して難色を示すことがあったりします。しかし、それは今までの環境への『慣れ』や、その当時では最適な答えだったことが、時代の変化によってそれが最適でなくなっているモノも多くあります。
今と同じモノをつくるのではなく、新しいモノをつくるために最適な提案をしていかなければならないと思います。そこには必ず問題も生じますが、それを一つずつ解決していくことが設計者としての仕事だと思います。そのためには、関わる多くの人々とコミュニケーションを重ねながら進めていくことが重要になってきます。
私が所属している福見建築設計事務所は所員が20人程の事務所で、いわゆる組織設計事務所と呼ばれるものになるかと思います。
住宅から教育施設や医療福祉施設、オフィスや工場等、幅広く設計していますが、その中でも私は公共建築に携わることが比較的多いです。
その際に設計する上で、何のために、誰のためにつくるのかというところを見失わないよう意識しています。住宅であれば打合せ相手は使い手の方ですが、公共建築の場合は必ずしも日常から使用する人だけが打合せの相手とは限りません。
学校施設の場合であれば、主役は子供たちになりますが、打合せは管理を行う担当課や先生方と行います。
先生が使いやすい、管理しやすい、運営しやすい建物にすることは非常に重要でかつ、それが子供たちへの教育環境の向上にもつながっていくわけですが、その一方で子供たちの目線に立って空間をデザインすることも重要です。新しい時代に合わせた良質な教育環境を常に提案していく必要があります。
建築に限らず新しいモノを提案するときに、100人いて100人全員が納得することはほぼないと思っています。
一つのデザインに対して立場や価値観が違えば様々な考え方がありますし、人それぞれ感性も違います。その中には異なる考えもありますが、すべてのデザインには理由があるのでそれを丁寧に説明し、芯はブレずとも柔軟な発想で様々な意見に耳を傾けて多くの人が納得でき、満足度の高いデザインにブラッシュアップしていくことが重要だと思います。