連載記事
テーマに沿って10名の建築家・建築士が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第2弾のテーマは「完成までのプロセス~人との出会い~」です。
※毎週火曜日に掲載
深山知子一級建築士事務所・レトノ
テーマ vol.02完成までのプロセス
~人との出会い~
「すべての想いはつながっていく」
私は住宅を主に設計していますが、それはHPやSNSなどをご覧になられたお施主さまからの依頼を受け、スタートします。
実際にお会いし、住宅に対する想いなどを聞かせて頂きながら何度か打ち合わせを重ね、基本設計、そして実施設計へと入っていきます。実施設計に入ると、あとは一人で黙々と図面を書く日々が続いていきます。
私にとってその時間は、自分や建築と対話できる時間であり、とても楽しくもあります。
そうして工事が始まっていくと、私の一人時間は工事に関わる多くの人との共同作業の時間となっていきます。そこでは監督さんや現場の方々から色々と教えてもらえることが多いので、設計者にとってコミュニケーション能力はとても大切だと実感しています。
現場ではいつも工事に関わる方々の、ものづくりに対するさりげない優しさや心遣いを感じることが多いのです。そこで今回は家具屋さんのお話を少し書きたいと思います。
キッチン、洗面、浴室などの水廻りは既製品を使うことはあまりなく、造作家具でつくることが多いです。それに付随する引き出しの取手なども造作でつくります。
その引手を家具屋さんは手が触れる部分なので、あたりが柔らかくなるよう微妙なRをとってくれていました(もちろん図面には書いてありません)。
しかも図面にあるシャープな雰囲気は変わらないように配慮してありました。私は、そのさりげない優しさや心遣いにとても感動したのを覚えています。
当たり前のようにするそのふるまいが、なんとも言えない心地いい爽快さを感じました。いつもそのことに感謝を伝えたいと思っているのですが。。。
現場に行くと、色々な業種の方がそのようなふるまいをしてくれているのを感じます。
ちょっとした意識の微差なのか、その積み重ねが建築となって姿を現した時、懐の深い、そして絶対的な安心感に包まれたような感覚を感じさせてくれます。
そういえば思い出したことがあります。
【建築基準法第1条】
この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、 国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。
どの憲法でも、その第1条となると、それはとても大切にしている中心、核となる部分だと思います。
この基準法第1条、そして人類の長い歴史をみてもわかりますが、やはり私たちは潜在意識下において常に絶対的な安心感を求めているのではないかと思います。
そんな本質的に人が求めているものを体現するがごとく、意識的か無意識的なのかはわかりませんが、工事に関わる方々のふるまいがあり、その事実に気づいた私はとても嬉しくなります。
そして、その思いを現場に携わっている方々にきちんと伝えるというコミュニケーション能力をもっと磨かねばと思う日々です。