連載記事
テーマに沿って10名の建築家・建築士が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第2弾のテーマは「完成までのプロセス~人との出会い~」です。
※毎週火曜日に掲載
HAJIME YOSHIDA ARCHITECTURE
テーマ vol.02完成までのプロセス
~人との出会い~
「僕の半分」
先日パリに出張に行った際、元同僚の生徒にレクチャーする機会があった。僕のことを誰も知らない彼らに、「僕」は何者かというプレゼンテーション。内容の大半は自分の作品についての紹介だった。
ふと、この社会の中では「僕」は自分の作品によって形成されてきているのだと改めて思った。独立したての実作が少ない頃は、知人が僕を紹介してくれる時はいつも経歴がメインだった。けど、今の自分は実作も増え、作品を見せればわかりやすく自分を紹介できる。そしてそれが社会の中での今の「僕」なのだろう。
そう考えた時に、「僕」の半分には、仕事を依頼してくれるクライアントとの出会いが大きく現れているのだと思った。
海外で生活していた頃、外から日本を見ると、それまで全く興味のなかった自分の国の文化に強い魅力を感じ、それと向き合って設計したいと思っていた。そんな自分の思いを知ってか知らでか、これまで何人ものクライアントから「日本的な空間をつくってほしい」という依頼や「日本の歴史ある建築の再生をしてほしい」という依頼をいただいた。
大阪で活動していた時は、外から富山を見ると地元の文化がとても魅力的に感じ、それと向き合いたいとも思っていた。そう思ってこの地に戻ってきたのだが、これもたまたま、伝統工芸と関わる仕事や街の文化と強く関わる場所での設計をさせていただくことが多くなった。
学生時代は設計課題で木材を用いたことはほとんどなかったし、日本的な表現をすることもなかった。伝統工芸の存在も知らず、そもそも自分の国へのリスペクトも地元への興味も一切なかった。それでも今はそういった仕事を依頼してくれるクライアントのおかげで仕事を通してそれらと深く向き合っている。出会いとは不思議なものだ。
レクチャーの際に学生から「なぜあなたは、時代に逆行するかのように空間にそんなに色を使うのですか?」と質問を受けた。
確かに僕の設計には色が多い。
もし物理的なコンテクストだけ気にして設計していれば、プロジェクトによって「かたち」が変わるだけで同じマテリアルでも問題ないかもしれない。けど、クライアントの要望、その場所にある文化的なコンテクスト、空間に表象する企業や個人のカラー、コンセプトなどを表現すると、自然に色が現れプロジェクトごとにマテリアルが変わることが多い。
クライアントと出会い、場所と出会い、思考する僕の個性が出会い、実現してくれる職人さんと出会う。クライアントも場所も様々な与条件も全て異なる究極の一点ものを、手探りで手づくりで、つくっているこの建築の仕事なのだから、それらが合わさればそれぞれの空間に特徴が出るのはきっと自然なことだ。
37歳の僕はこの社会の中でこれから十数年かけて、より分かりやすく「僕」が形成されていくだろう。それは言わば出会いと創作が「僕」をつくっていくことだ。そう思うと、これからどんな出会いがあるかとても楽しみである。