連載記事
テーマに沿って10名の建築家・建築士が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第3弾のテーマは「基本構想が生まれるまで〜アイデアとの出会い〜」です。
※毎週火曜日に掲載
三四五建築研究所
テーマ vol.03基本構想が生まれるまで
~アイデアとの出会い~
「ステップ・バイ・ステップで考える」
全5回のリレーブログも、あっという間に折り返しになりました。
学生や建築に興味のある方々に、設計者の日常をありのままにお伝えできればと思っています。今回のテーマ「基本構想が生まれるまで(アイデアとの出会い)」についても、日々の考えていることを文章にしてみたいと思います。
公共建築では設計者を選ぶ際、「設計プロポーザル」という選定方法が採用されることがあります。設計プロポーザルの定義は、国交省によると「技術力や経験、プロジェクトにのぞむ体制などを含めたプロポーザル(提案書)の提出を求め、公正に評価して設計者を選ぶ方式」とあります。
私たちの事務所でも、設計プロポーザルに参加する機会があります。提案書を作成する際には「技術力の評価」として、与えられた要件を元に基本構想を練り上げる必要があります。
プロポーザル提出後に結果が発表されると、最優秀の案を含め、他の設計者の構想案を拝見する機会があります。同じ敷地、同じ用途、同じ要件なのに一つとして同じ案はなく、「設計者が違うと、ここまで違うのか?」と、いつも驚かされます。
なぜこのような違いが生まれるのでしょうか。
最優秀に選ばれなかった時、設計者それぞれの能力や感性によるものが大きいので、負けてしまっても仕方がない・・・と思考停止していては前に進めません。
そこで私は、設計における基本構想の違い=設計プロセスの違いであると仮定しています。設計プロセスを日々考え、更新していく事で、より良い基本構想を生み出す能力をアップできると考えています。
そして、ようやく本題である私の設計プロセス(=基本構想が生まれるまで)は、「定型的な手順を踏み、ステップ・バイ・ステップで積み上げて考えること」をベースとしています。
設計プロセスのベースをあえて定型化・手順化することで、案としての平均強度をグッと上げることを可能にします。また組織設計事務所では、基本構想を練る際も、2人以上のチームでつくりあげていきます。複数人で自分達の考えを共有する必要があるため、言語化して伝える事が必須です。
そういった意味でも、いきなりジャンプせず、ステップ・バイ・ステップで日々、案が線形的に進化するプロセスは組織設計にとって、相性がよいと考えています。
今回は、以前参加した複合文化施設(図書館+市民交流センター)のプロポーザル案が出来るまでをネタに、具体的な設計プロセスをご紹介したいと思います。
ステップその1 -現地で考える-
まず始めに、あまり細かい要件は頭に入れず、計画敷地に向かいます。初見の大きな目的は、周辺環境を五感で体験すること。既存建物やまちの様子、音や光、匂いなど、現地に行かないとわからない情報をキャッチして、言語化して記録します。出来るだけ、広域情報を把握しながら、実際の敷地を取り巻く環境を見に行きます。
ステップその2 -数値で考える-
現地を確認した後、簡単なスケッチは描きますが、それよりも重要なのは数値での整理です。諸室リストを頭に入れながら、面積を整理し、階構成を考えていくと、いくつかのボリュームパターンが見えてきます。ここで大事な事は、複数案で同時並行に考えること。可能性の無さそうな案が後々採用されることもあり、たくさんの比較検討を行う事が大切です。
ステップその3 -言葉で考える-
おおまかなボリューム感をつかんだところで一旦、手をとめます。
周辺の歴史や文化、気候など、地域性をリサーチし、この場所にどんな建物がふさわしいか、みんなで考えます。併せて、空間のイメージを言葉で練り上げます。ここでざっくりとしたコンセプトメイキングをします。
ステップその4 -スケッチで考える-
ここからようやく、手を動かしていきます。クイック&ダーティーを基本に、複数案を数多く、比較検討していきます。おぼろげながらでも、建物のコンセプトや空間の特徴が同時に決まっていくことが理想です。
ステップその5 -カタチで考える-
最終フェーズでカタチをつくります。スケッチ、模型、二次元CAD、CGなど、様々な手段で検討を進めていきます。ステップ1~4に戻ったり、進んだりしながら構想を練り上げていきます。
プロジェクトによって、手順は異なりますが、これらのプロセスで順を追って進めていきます。新入社員の頃は、〆切までに案が出来るかどうか心配でしたが、そういった不安はなくなりました。ベースとしてのプロセスを大事にしながら、手数や得意技を増やし、新たな設計プロセスを日々更新しています。
最後に・・・出来るだけジャンプをせず、ステップ・バイ・ステップで進めることを基本としていますが、それだけでは面白くありません。
考え抜いた計画案を飛躍させるコツについて、1冊の本にヒントがあります。
外山滋比古さん著「思考の整理学」という本の中で、「アイデアを頭の中に仕込んだら、熟成するまで寝て待つのが賢明である。無意識の時間を使って、考えを生み出すということにわれわれはもっと関心をいだくべきである。」というような記述があります。
ステップ・バイ・ステップでつくった計画案を一旦手を止めて寝かせる。言語化できないそのプロセスが、長い時間の流れに耐えうる建築かどうかの分かれ道なのかもしれません。