連載記事
テーマに沿って10名の建築家・建築士が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第3弾のテーマは「基本構想が生まれるまで〜アイデアとの出会い〜」です。
※毎週火曜日に掲載
dot studio
テーマ vol.03基本構想が生まれるまで
~アイデアとの出会い~
「検証」
私の設計活動において、アイデアと出会う方法としては、ボリューム模型製作がルーツになっている。大学をでてから勤務した設計事務所では、いわゆるボリュームスタディが主な検証方法だった。
スタイロフォームと言われる発泡材を電熱線で切断し、接着して立体をつくっていく。その際に、周辺の建物、環境に対する建ち方や、その大きさなどを検証する。敷地条件や施主要望から、いくつもの案を削り出し、ふさわしい提案を探していく。
ふいに思い立つことも多々ある。内部空間をボリュームとしてとらえ、空隙を外部空間としている為に、主に内外の関係性からアイデアを出していくと言っても良いのかもしれない。ボリュームから具体化していくにあたり、壁や床の概念を含ませるために材料は面材へと変化し、その過程でもいくつもアイデアが生まれては消え、形態は常に形を変えていく。
住宅以上の大きな規模の計画では、おおよそこの方法で進めていくことが多いが、逆にコンパクトなサイズの改装やインテリアの計画においては、平面計画の検証を主にアイデアを探すこともある。すでに存在している枠に対して、どのような配置が適しているか、こちらも数を出して検証する。
条件がそれほど多くない案件であれば、アイデアの自由度が高いため、40-50の間取りを検証することもある。小さな計画では施主さん自身が間取り検討に参加できるという点も面白い。
さらにスケールを小さくしていくと、ロゴデザインもまた、異なる方法で検証する。例えば、クライアントからの「手書き風」といったリクエストに対して、下図の検証では、別のモチーフ(木の年輪)から線の形状をつくっている。
同時に、渦巻き状の絵を何度も書いて検証し、「手書き風」の可能性を探ってく。いつどこでアイデアが生まれるかはわからないので、多角的な視点で考えることがより重要だと考えている。
一見すると、グラフィックと内装設計は別々に検証しているように見えるかもしれないが、今までの検証方法を複合的に考えることもある。
例えば、内装の仕上げ(色味)を検証する場面で、名刺やロゴといったグラフィックを同時に検証することで、より要望にふさわしく、新しい視点でのアイデアが生まれる可能性が出てくることもある。
「出会いがない」とはよく聞く台詞だが、アイデアとの出会いがそう簡単にあるわけではない。
様々な方法で、道具で、場所で、さらにはスケールを行き来し、アイデアとの出会いに気付くことができるか。そんな「彼」と出会った時に一言声をかけることができれば、うまくいくのかもしれない。