連載記事
建築家・隈研吾氏が手掛ける建築物の和紙による内壁工事を担当するなど、北陸を代表する内装工事の職人さんです。その匠の技を得るに至った経緯や仕事へ想いを、本音で語っていただきました!
ラボ
餘久保さんが内装工事業の道に進まれたキッカケを聞かせてください!
餘久保さん
きっかけは、周りのみんなより高校を一足早く卒業したからです(笑)。すぐに自分で稼ぎたいと思い、配管屋、鳶、大工など、いろんな仕事を経験しました。飲食店で働いていた時に、その社長が新事業として内壁のクロス屋を始めないか?という話になり、二人三脚でゼロからスタートしたんです。
餘久保さん
その頃はまだ17歳くらいだったかな。社長も僕も別々に修行に行きながら、仕事もこなしつつ技を磨いていきました。手探りでのスタートでしたが、後々はクロス屋として社員5人の会社に成長しました。
ラボ
いずれ独立する!そんな意識はありましたか?
餘久保さん
23歳の頃ですかね。結婚もして長男も生まれていたので迷いはありましたが、方向性の違いというか…、社長と話し合って独立することを決めました。ただ義理として3年間は前の会社のお客さんと取引をしない。取引先はゼロから自分で探すと決めていました。
ラボ
独立当初はやはり大変でしたか??
餘久保さん
そうですね…。当時は同業のクロス屋さんのお手伝いやヘルプに行ったり、仲良しの大工さんが手を差し伸べてくれたおかげで、何とか仕事を繋ぎながら技を磨いて、少しづつ取引先が増えていきました。独立して23年経ちますが、売り上げは一度も落としたことがありません。
ラボ
すごいですね! それだけ仕事が増え、広がっていった要因は何ですか?
餘久保さん
やはり前の親方との仕事を見てくれていた人が声を掛けてくれて、またその仕事を見た人から声が掛かってと、口コミのような感じで広がってくれました。これまで自分から営業はしたことがなくて、ありがたいことに紹介一本で今日まで頑張ってきました。
ラボ
“仕事が仕事を呼ぶ”というのは本当ですね!
餘久保さん
独立してからしばらくは手間仕事などもやっていましたが、「こんなことをするために独立したんじゃない」と、自分自身に納得がいかない時があって…。
「会社が潰れてもいいから自分のしたい仕事で勝負してみよう!」と、手間仕事を断ってお客さんと直接やりとりできる仕事だけを請けるようにしました。
その決断があって今があると思っています。「すべての仕事に全力で、常に前よりも良い仕事をする」ということだけは貫いてきました。
ラボ
それほど仕事に打ち込む「原動力」は何ですか??
餘久保さん
「頼まれごとは試されごと」と思っています。仕事の依頼があった時は、人を見られている、仕事を見られているということなんです。
当社の評価点数は、90点が満点。あとの10点は伸び代として点数には入れない。次に繋げるため、それを継続しているだけです。
ラボ
そんな仕事ぶりが評価されて、建築家・隈研吾氏が設計を手掛けた建築の内装も担当されたと聞きました。
餘久保さん
立山町白岩に酒蔵を建設する工事で、富山で和紙を貼れる職人として、当社に白羽の矢が立ったんです。
ただ、現場を見て施工内容を聞いた時には、正直無理だと思いました(笑)。手に取っただけで溶けていくような和紙を壁一面に貼っていくというオーダー。氷水に手を突っ込んで冷やし、それから施工する時もありました。指のひらで和紙をなるべく触らないように作業を進めていかなければいけないです。
本当に難しい工事でしたが、とにかくやってみようの気持ちだけで臨み、結果は自他ともに納得出来るほどの完璧な仕上がりでした。
ラボ
何事もチャレンジなのですね!
餘久保さん
隈研吾さんの現場は、打ち合わせもプロジェクトを完遂するために、「じゃあどうしようか」という建設的な意見ばかり。経験のために多少の赤字は覚悟!と思っていましたが、そんな気持ちも無くなるくらい非常に楽しませていただきました。
実は、この仕事に出会うまでの3年間くらいは、「ここまで丁寧に施工しなくていいんじゃないか」と心が折れかかっている時がありました。自分の仕事の価値に気づいてもらえないのであれば、「8割くらいの仕上がりでも良いのかもしれないな」と…。
ただ、この仕事に出会えたことで、自分のこれまでの仕事、やってきた事は間違いではなかった!とすごく報われた気持ちになりました。
ラボ
質の高い仕事が評価される。まさに職人としての醍醐味ですね!
餘久保さん
当社には、“ものづくりを通しての幸せづくり”という理念があります。まさに、隈研吾さんとの仕事でそれを再確認できて、業界の人たちから「この建築の内装はインテリアファインにしかできない」って言われた時は本当に嬉しかったです。
ラボ
最後に、今後の夢や目標はありますか?
餘久保さん
自分の父親は、富山市五福で50年続くカレー屋「カリカット」を経営しています。ず〜っとお客さんや業者さん、いろんな人に感謝して生きてきた父の背中を見てきました。
父の跡を継げないのは心苦しいなと今になっては思います。だからというわけではないですが、いずれは息子と一緒に元請けとしての建築事業にチャレンジする夢があります。
ラボ
お父さんの仕事への想いも受け継がれているのですね。
最後に、内装工事や職人さんのお仕事に興味を持つ学生さんにメッセージをお願いします!
餘久保さん
内装工事は建築の仕上げ。お施主さんもクロスが貼られると一気にワクワク感が高まるのではないでしょうか。お客さんに一番喜ばれる仕事ではないかと思っています。
この仕事は腕力も特別な才能も要りません。培ってきた知識と技と経験が物を言う仕事です。人生も同じく、「なんでだろう?」と考える探究心がすべて。
「職人として自分の腕を磨きたい!」人には、男女問わずぜひチャレンジしてほしいですね!!