連載記事
テーマに沿って10名の建築家・建築士が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第3弾のテーマは「基本構想が生まれるまで〜アイデアとの出会い~」です。
※毎週火曜日に掲載
深山知子一級建築士事務所・レトノ
テーマ vol.03基本構想が生まれるまで
~アイデアとの出会い~
「習性について考えてみる」
レトノでは「心の調和をもたらす建築」をコンセプトに設計活動をしています。建築が人の心に及ぼす影響は大きく、心と密接にかかわる潜在的な居心地の良さは住宅においてはとても大切だと考えています。
それは人種、性別など私達の多様性を超えたところにある人類共通の居心地のよさと言い換えてもいいかもしれません。
その為には人間の本質的な部分を観察し、それを様々なエッセンスとして空間に散りばめることが大切だと思っています。
例えば…
・ねこサークル
・フレーム効果
・チェア効果
・開閉衝動
・右脳、左脳の特性
・光の作用
・動的反応 etc..
本質的な部分は人間の無意識下にある行動として表れてくるので、日常の習性を観察すると様々なおもしろいものが見えてきます。この中でも光の作用は特に心に及ぼす影響が大きいので、今回はこれを取り上げてみようと思います。
私たちは無意識的に光の方向を見てしまうという習性があります。行動心理学におけるサバンナ効果もその中の一つだと思いますが、なぜ私たちはそれほど光に魅了されるのでしょうか、またなぜ建築にとって光が重要だと言われるのでしょうか。
それは光そのものが安心感、穏やかさ、落ち着きなどを感じさえてくれ、心を調和することを私たちは無意識に知っているからだと思います。
私の好きなルイスカーンは光に魅了され、それを大切に扱い、空間に体現した建築家のひとりだと思います。建築において光を取り入れる場合、横からの光、上からの光、反射光などがあります。
一般的に住宅において上からの光(ハイサイドライト、トップライト)を設ける場合は、光量を補うために補助的に使うとことが多いと思いますが、私は上からの光を使う最大の意味は、自然と目線が上に向き、見上げるという行為を引出すことにあると考えています。
私たちは毎日パソコンやスマホを見るので、下を向くことが多いと思いますが、だからこそ住宅の中にこのような振る舞いをつくり出すことが大切なのではないでしょうか。
少し話は変わりますが、ヨガの世界観では、私たちの構成要素は、おおまかに身体と心と魂の3つだと言われており、身体のポーズをとることで、心が連動的に変化し、調和へと導いてくれます。
「平和的戦士のポーズ」というものがありますが、このポーズは顔を上にあげることで前向きな気持ちをつくり出すことから、朝に行うと良いとされています。
なぜなら朝の気分がその日一日の気分を決定することを、私たちは潜在的に知っているからです。
このように人間の習性を理解し、効果的に使うことで建築の力によって精神を開放し、生命的で調和的な潜在意識へと変えていくことが可能だと私は信じています。