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第4回目は、富山の塗装業界に新風を吹き込む株式会社ATOJI(富山市)代表取締役の阿閉真弥さんです。
オリジナリティあふれる確かな技術が信頼を集め、建築家や施工会社からオファーを受ける阿閉さんに、塗装職人の仕事について、じっくりと伺ってきました。
ラボ
まずは、塗装職人を志したきっかけを聞かせてください。
阿閉さん
小学生の頃から、図工で絵を描いたりするのが好きでした。建設業界に入るとなった時に、解体や鳶の会社から声が掛かりましたが、迷いなく塗装の道を選びました。ただ、実際入ってみたら思い描いていた仕事とはかけ離れていて、厳しかったですね…。
ラボ
具体的には、どのあたりが厳しかったですか?
阿閉さん
最初の半年から1年は、刷毛やローラーさえ持たせてもらえなかったですからね。現場で壁を削る作業や、下地を整える作業だけを繰り返しやっていました。楽しくはないですし、「早く自分で塗りたい」と思っていたら、ある日突然現場で、親方から「阿閉、やってみろ」と言われて。練習も一切なしのぶっつけ本番でしたけど、「楽しい!」 と感じたのを今でも覚えていますね。
ラボ
初めての“塗り”が、いきなり現場だったんですね…。
阿閉さん
はい(笑)。やはり難しかったですが、失敗を幾度も経験して、それがまた次のスキルアップに繋がっていくのは感じました。キレイに塗れて、お客さんに喜んでもらったり、親方に褒められたらやっぱり嬉しいですよね。
吹き付け塗装になると、ムラなく一定に塗るのにはかなりの経験が要ります。吹き付ける角度やスプレーガンの選定、どの口径のノズルを取り付けるかなどは経験がモノを言います。仕上がりが全く違いますから。教科書通りのやり方をしても上手くいかないので、自分で工夫しながらオリジナルの手法を見つけるんです。
ラボ
仕事をするうえで、阿閉さんが大切にしていることは何ですか?
阿閉さん
施主さんの好みや建築士さんのイメージ、現場の出来上がるイメージを掴んで、全体像をイメージすることを大切にしています。ここにこういう素材を使っているから、ここはやりすぎてもだめだな、とか。時にはオーダーと違う提案を自らすることもあります。
ラボ
塗装だけではなく、建物全体の仕上がりを考えるんですね。
阿閉さん
これまで様々な図面を見てきているので、「こんな風にしたいんだろうな」と自分なりに考える。そこは経験とセンスにもなってきます。あとは、下見を大事にしています。建物がだんだん建ってきた時に現場に足を運んで、「ここは落ち着いた感じにして、ここはゴツゴツと立体感つけて」など、イメージを膨らませてから現場に臨んでいます。
ラボ
VALPAINTやMORTEXといったヨーロッパのテクスチャー塗料もいち早く取り入れていますね?
阿閉さん
施主さんや建築士さんの要望に応えたいというのが全てです。そのために、毎年新しい商品が出たら、東京、大阪、名古屋などで講習を受けてライセンスを取得するなどは積極的にしています。
やはり、都会に比べて富山は2~3テンポ遅い。図面にはこの材料を使ってというオーダーもありますが、「他にもうちょっとコスト抑えられて良いものがありますよ」といった提案をすれば、みんなが喜びますよね。
ただ良い材料を使っても、使いきれなければ意味がない。そこでオリジナリティを出すために、試行錯誤しながらATOJIのやり方を探っていくわけです。
ラボ
これまでの一番の苦労を聞かせてもらえますか?
阿閉さん
16歳でこの世界に入り、「いろんなやり方を学びたい」と思って3つの塗装店で修行をしてから、23歳で会社を立ち上げました。今は8人の職人を抱えていますが、1年目は1人、2年目は2人からのスタートでした。自分が若く、経験も浅かったこともありますが、なかなか利益が出ない日々が続きました。「何でこんなに儲からないんだろう」と(笑)。最初の5~6年は本当にがむしゃらに、休みなしで毎日現場に出ました。
ただ、従業員や家族のためにこのままじゃダメだと感じ、下請け体制から元請けへの転換を図ったことで、少しずつ目指す方向に近づいていきました。
ラボ
今では、施工会社や建築士さんから塗装は「A T O J I」でと、指名を受けているところもあると聞きました。
阿閉さん
インテリアのアクセントになるような、テクスチャー素材を使ったウチにしかできない技術を磨き続けてきて、それを認めてもらっている実感はあります。アート性に優れ、他にはない仕上げが出来ることは、施工会社にしても武器になるわけです。
あとは、目に見えない部分ですが、「下地を整える作業は絶対に疎かにするな!」と、ウチの職人にはよく言っています。塗料の機能を生かすために、下地作りにはものすごく時間をかけます。そこは自信持って言える。3~5年経てば、明らかに仕上がりに差が出てくるんです。そこは嘘をつかない。
ラボ
建築は目に見えて、ずっと残る仕事ですよね。
阿閉さん
そうですね。建物は、5年、10年で消えるものではありません。富山の住宅をカッコよくしたいという想いが強く、街を見ていても、「ここの壁にこの塗装をしたらカッコいいのにな」とついつい見てしまいます。
最近では、立山町にある「ヘルジアン・ウッド」の塗装も施工させていただきましたが、一見変わったものを作るとなると面白いですね。手間や時間は掛かりますが、仕上がった時はすごく嬉しい。私達にとっては、一つの作品としてずっと残るものですから。
ラボ
建設業の未来はどうなるの? という疑問を抱く若者も大勢いると思いますが、阿閉さんの意見を聞かせてください。
阿閉さん
うーん…難しいですが、業界自体に仕事がなくなることはまずないでしょう。機械で下地作れるか?と考えるとそれはまず無理。そこには人の技術が必要です。ただ、今後業者が淘汰されることは間違いありません。
建物は一人ではなく、他の業者さんと協力して作るもの。コミュニケーションがすごく大切で、当たり前の事ですが、「挨拶で始まり、挨拶で終わること」に尽きます。それができたら自然と色々なことが身に付くと思っています。建設は男臭いイメージがありますけど、本当は女性の職人を育てたい。そうしたら、この業界も変わってくるだろうなと思います。やる気のある塗装女子、ぜひ待ってます!