連載記事
テーマに沿って10名の建築家・建築士が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第3弾のテーマは「基本構想が生まれるまで〜アイデアとの出会い~」です。
※毎週火曜日に掲載
HAJIME YOSHIDA ARCHITECTURE
テーマ vol.30基本構想が生まれるまで
~アイデアとの出会い~
「追い込まれたら出る」
頭の中はいつもごちゃごちゃしている。基本構想、言わば「コンセプト」を生み出そうとしている時はそれが本当に酷い。
「コンセプト」が最も重要だと修行時代散々叩きこまれた。
デザインするということは様々な与条件を包括し、クライアントの想いに「かたち」と「素材」を与え、環境の中に「風景」をつくることだと思っている。
その様々なデザインの要素を凝縮した核が「コンセプト」であり、それはプロジェクトの骨格になるものだ。これがないと細かい各論の変更で全体が簡単にブレるし、ただ「いい感じの集積」で空間ができうる。
プロジェクトによって、コンセプトのつくり方は違うが、いくつか例を挙げると、
WOODOKAN (2016, Xi’an, China)
コンペに勝利し契約書まで交わしたが、頓挫してしまったプロジェクト。
中国西安の広い自然の中に設置する昼寝するためのパヴィリオン。この時は周囲の環境と繋がりながらも、心地よく昼寝できる空間を模索していたら、ドラえもんの中でのび太が土管で昼寝しているシーンを思い出し、木の土管という「見立て」をコンセプトとした。円形のチューブはひとつながりながらも3つ足に分かれて空間に変化をつくり、様々な居場所をつくっている。
あまがさき観光案内所 (2019, Amagasaki, Hyogo)
様々に異なる機能(インフォ、展示、休憩、物販、フリースペース)を出来るだけ少人数で管理できることが機能上必要だった観光案内所の設計では、既存の特殊な形状の空間に呼応するようなカウンターを中央に置くことで、周囲の余白を整えることをコンセプトとした。
インテリアの設計ではあるが、強い造形のカウンターの配置が、一つの空間に「図」と「地」の関係性を発生させ、余白部分をうまくコントロールしている。ここには物語性はなくミニマルアートのように即物的にある状態をつくるため腰壁にはミラーをつけて、周囲の風景を反射させている。
和楽園 (2023, Nanto, Toyama)
広い敷地を日本庭園にするというランドスケープのプロジェクト。まずは広い敷地の中央に東屋を設け、中心をつくることで秩序をつくり、それに沿って植栽のデザインを行った。東屋には45度振った壁が挿入され、この壁に沿って中に入っていくというシークエンスをつくった。東屋の構造の正方形に黒い壁の斜めの要素を入れる構成は、茶道で炉に柄杓を斜めに置く配置とも重ねており、このプロジェクトでは日本文化の概念的な表現もかたちに重ねた。
アイデアはそこら中に転がっている。会話の中にも、現場にも、日常の中にも、歴史の中にも、違う分野の中にもある。けど、それらは「コンセプト」の種であって、コンセプトは突然降ってはこない。修行時代からやり方は同じで、ただ頭と手を動かして全身で思考している中で生まれる。
しかも僕の場合は締切ギリギリのタイミングが常だ。自分の納得のいくものがちゃんと間に合うかと追い込まれ、焦り、精神的にもおかしくなる過程を必ず経て、ふと、何かが腑に落ち、スッと軽くなっていく瞬間がある。その時にいつも「生まれた」と思う。
もちろん、一発のプレゼンで決まることばかりではないが、まずは自分が納得いく案をクライアントにぶつけるためにも、それをちゃんと自分の身体に落とすような作業とその過程をいつも大事にしている。