連載記事
テーマに沿って10名の建築家・建築士が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第4弾のテーマは「建築と都市 ~周辺環境との関係性~」です。
※毎週火曜日に掲載
三四五建築研究所
テーマ vol.04建築と都市
~周辺環境との関係性~
「つながりを生む関係性のデザイン」
前回のテーマ「基本構想が生まれるまで」、各設計者の創造の源泉が垣間見えて、とても勉強になりました。
先日ラジオの中で、あるミュージシャンが楽曲制作にまつわる話をしていました。「クリエイティブに終わりは無く、満足することはない。制作の終わり=締め切りというだけで、満足して完成を迎えることはない」という内容でした。各々設計者のプロセスこそ違えど、終わりなく考え続ける事こそが創造の醍醐味だと思いました。
さて、今回のテーマは「建築と都市」です。そのテーマを抽象化して読み解いてみると、「建物と周辺環境の関係性のつくり方」とでも言えましょうか。
古い本ですが、今回のテーマにふさわしい良書がありました。芦原義信著“外部空間の設計”です。スケール、テクスチャ、外部空間のヒエラルキー、都市性など、様々な論点を切り口に、建築単体ではなく、関係性によって生まれる空間の在り方、つまり関係性のデザインについて書かれています。
「関係性のデザイン」は私にとっても重要なテーマです。今回はいくつかのプロジェクトを通じて、テーマの深ぼりをしてみたいと思います。
まずは、富山市内中心部での住宅計画です。
大きな区画割で形成された落ち着いた住宅街の中、三方を住宅に囲まれた環境でした。L型の建物ボリュームで敷地を切り取り、周辺住宅との間に出来た余白を大きな中庭空間としました。私的な空間である中庭とパブリックな街並みが抜けのあるピロティを通じてつながりの関係性をつくる計画です。
続いても住宅の計画です。
小矢部市内、旧北陸街道に面し、黒瓦屋根が立ち並ぶ伝統的な美しい街並みに建ちます。代々受け継がれた邸宅の歴史継承をコンセプトに、街並みとのデザインコード統一や歴史ある庭と敷地を超えた景観への接続など、環境と歴史へのつながりが重要なテーマとなったプロジェクトです。
最後は魚津市内の銀行店舗です。
住宅や商業施設、文教施設が混在して建つエリアの中にあります。店舗にありがちな、大きなハコモノと自己主張の強いサインで構成するのではなく、分割してセットバックしたボリュームとスケールダウンを図るための水平ラインを強調したキャノピーで、住宅地を含めた周辺環境との関係性を調整しています。地域とのつながりを大切にする銀行の在り方を体現したプロジェクトです。
社会背景に左右されて建築家の関心は時代によって変遷していきます。「モノのデザイン」から始まり、「コトのデザイン」に変わり、現代は「関係性のデザイン」を考えることが大切です。
私自身、いくつかのプロジェクトを改めて振り返ってみると、普段から大切に考えている関係性のデザインは、「様々な環境や関係をいかにつないでいくか?」であることに気づきました。これは初回でも書いた建築を通して人や社会と向き合うケンチク理念につながります。
モノを考えるだけではなく、丁寧に関係性を読み込んだデザインで、より豊かな街並み形成を今後も考えていきたいですね。