連載記事
テーマに沿って10名の建築家・建築士が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第4弾のテーマは「建築と都市 ~周辺環境との関係性~」です。
※毎週火曜日に掲載
dot studio
テーマ vol.04建築と都市
~周辺環境との関係性~
「街の装い」
普段は住宅や店舗、オフィスや教育施設など、用途規模を問わず設計しているが、今回のテーマを機会にして、周辺環境との関係性を軸に、私が設計した店舗(改装)に関して整理してまとめてみようと考えた。
そこで、富山市の代表的な集客エリアである総曲輪エリアの案件を振り返ることにする。地方都市において、大規模な集客エリアはそう多くはない。そこで、集客エリアでの設計を検討するときは、周辺施設や道の状況などを観察したうえで、人々の活動がその店舗だけで完結せずに、周辺と関係をもつように心がけている。
①居酒屋W 1号店・2号店
1号店は、2019年にオープンした10坪ほどの居酒屋で、2022年に斜め向かいに2号店がオープンした。ともに居抜きの飲食店である。
前面道路の幅が狭く、周辺は呑み屋外のような街並みであったために、1号店には壁面に大きくガラスを利用することを提案し、店内が外から見通せる構成にすることで集客につながっている。ペアガラスを採用して冬場も曇らない効果も大きい。2号店は、1号店を道路を挟んで拡張したようなイメージで、エントランス部分に外部席を設けることで、街路空間との一体化を図っている。

②ビストロT
こちらの店舗は地下なのだが、周辺に飲食店が多く、人通りも多い。そこで、入り口と階段室部分を思い切って解体し、小さなスペースを確保した。そこに外部カウンター席を設けることで、看板に頼らずに、地下店舗の空間の存在を地上面に知らせている。
③イタリアンレストランO
比較的車通りの多い道路に面していることから、大きな折戸によって、外部との関わりを調整できるように配慮した。また、店舗内外を周辺建物になじむ配色とし、天井の躯体を表しにすることで、外部のような雰囲気をもたせ、内外の連続性を作り出し、空間の広がりを獲得している。
④カフェS
お店の前の歩道は広く、共用のベントなどもあり、土日は賑わいをみせる場所であることから、歩道を引き込むように店内に道を設けている。蛇行する道に合わせてカウンターや客席を配し、砂利などの通常外部に使う素材を内部に用いることで、街の一部で休憩しているような空間を目指した。
⑤バー N
以前スナックだった店舗で、老朽化も著しかったことから、思い切ってエントランスドアを取っ払った。代わりに設えたカーテンをくぐると、中間期に利用可能な外部席となっており、カウンターには入らない多人数でバーを楽しむことができる。何のお店なのか、入り口はどこなのか、見知らぬ路地に入り込むような、蠱惑(こわく)的な店舗にしている。
⑥居酒屋R
カウンター席と小上がり席などがある、あくまで王道の居酒屋でありながら、ファサードに外部カウンターを設けて、厨房から直接食べ物を提供できる窓口とした。週末の昼間は、近隣の映画館や商業施設の利用者を想定しており、コロナ時のテイクアウトにも一役買ったようである。
これらの店舗を改めて振り返ると、店舗のファサードの工夫や、外部席を設けること、道状の設えなど、店舗内部に周辺環境の要素をとりいれて「街の装い」を持たせていると考えることもできる。
地域の気候や、座席数などの経営的な判断を超えて、計画の大小にかかわらず、都市のスケールで人の動きを見て、周辺環境の差異をきめ細かく拾い上げ、空間に「街の装い」を感じるような店舗をつくることで、賑わいや、活性化につながるのではないだろうか。