連載記事
テーマに沿って10名の建築家・建築士が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第4弾のテーマは「建築と都市 ~周辺環境との関係性~」です。
※毎週火曜日に掲載
神田謙匠建築設計事務所
テーマ vol.04建築と都市
~周辺環境との関係性~
「都市 │ 人の界面活性」
都市は、人が住んだり働いたりすることで活力を得ています。人は、都市の一部を囲って生活の場を得ています。この健全な共生関係を繋ぐことが、建築の役割の一つだと思います。
都市│建築│人というように、建築は二者の間に立ち、界面を行き来できる存在なのです。
前回は「建築│人」にあたる、内向きな考えについて書きました。今回は「都市│建築│人」と、都市という外向きな条件も加えて、建築の在り方を考えてみます。
都市│建築│人。それぞれの意味が大きくて複雑です。突飛なように思われるかもしれませんが、マヨネーズに置き換えてみると建築の役割をシンプルに例えることができました。
酢・油・卵が材料の私も大好きな最強調味料ですが、注目しているのは味ではなく、その構造です。本来、酢と油は混ざりません。しかし、そこに卵を加えることで分離していた材料が結びつき、安定するのです。
この卵が持つ、酢と油の境界にアプローチして関係性を仲介する「界面活性」という作用は、はじめに書いた建築の役割に通じるのではないかと思っています。
建築を一つ紹介します。日本一小さな自治体であるにも関わらず、子育て世代の人口の増加が著しい舟橋村で設計した学童保育施設です。
村の規模に対して、公共建築に限られた世代しか利用しないのはもったいないという、都市的リソースの課題。大前提である子供たちの「安心・安全」を守るという、人的リソースの課題。この都市と人、両面からの要件を建築で仲介するため、多世代が交わりながら子供を育む、村民の関わり代をつくるよう設計しました。
これもまた、舟橋村ならではの都市と人の界面活性になるのではと思っています。
関係性と言えばなんでもそうですが、どうせなら良好であってほしいものです。当然、結ぶだけが関係性ではありません。周辺環境や建主さんの要望によっては、離したり断ったりすることも必要です。
酢と油を卵で繋げた発見は、「おいしい」からこそ価値ある発明なのです。大切なのは、相乗効果を生むようにマッチングさせる、相性の見極めなんだと思います。
結ぶことも断つこともまるっと引き受けて、都市│人の良好な共生関係を拓く、おいしい建築をつくっていきたいです。