連載記事
テーマに沿って10名の建築家・建築士が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第4弾のテーマは「建築と都市 ~周辺環境との関係性~」です。
※毎週火曜日に掲載
福見建築設計事務所
テーマ vol.04建築と都市
~周辺環境との関係性~
「地域の環境と背景を読み解く」
建築を計画する上では、与えられた敷地内に限らず、その地域で育まれた歴史・景観・特色・周辺の建築などのコンテクストを一体的にとらえて検討することが大切です。
周辺環境との関係性は、決して外すことのできない重要なファクターの一つだと捉えています。現状の街並みや風景だけではなく、そこに存在するコミュニティーや地域の繋がり、歴史的背景など目に見えないものにも配慮しながら計画していくことになります。
今回は実際のプロジェクトを例に挙げて書いていこうと思います。
はじめに富山県立富山中部高等学校の改築です。
このプロジェクトは既設校舎の老朽化に伴う設計プロポーザルから始まりました。伝統校にふさわしい風格と県内有数の進学校としての先進性を兼ね備える建築物を目指し、『継承』と『創造』をコンセプトとして計画しています。
2代前のキャンパスは、ヒマラヤスギの並木がアプローチ空間のシンボルでした。その記憶を継承するため、長い歴史の中でつくられてきた環境資源を積極的に生かし、新たなキャンパスプロムナードとして再生しました。
校舎は中庭を囲む回廊型としています。旧校舎の歴史の継承に加え、中庭を介して生徒や教師の視線が混ざり合い、一体感のある校舎となるよう計画しています。
中庭に面して廊下を設けることで、コモンスペースやラウンジの内部空間とバルコニーや大階段、屋上庭園などの外部空間が連続して、内外に多様な居場所をつくっています。お互いの活動が感じあえる魅力的な建築空間になっています。
次に富山県防災危機管理センターです。
富山県で災害が起こったときの最重要拠点施設として、富山県庁敷地内に計画されました。どんな災害に対しても強靭な建物としていることはもちろんのこと、松川べりや富山城址公園に隣接する富山市中心部の観光拠点として、更なる賑わい創出の仕掛けとなるデザインとしています。
半屋外のピロティー空間やエントランスは、県庁前公園と城址公園をつなぐ南北の軸線と松川べりや県民会館をつなぐ東西の軸線をむすび、広域的には富山駅と総曲輪の中間地点として、周辺施設との連続性やイベントに活用できる空間ボリュームで賑わいの創出に寄与しています。
内部の交流展示ホールは、外部側を全面ガラス張りとした上で天井高を確保することで、松川べりの緑の景観を生かした屋内外が連続的な開放感のある空間としました。県産杉ルーバーや県産材家具などを使用し、やさしい表情のふらっと立ち寄れる開かれた県庁舎デザインです。
エントランス部分には、富山を拠点として世界で活躍する組子職人さんと和紙職人さんのコラボレーション作品を設置しています。
富山県の豊かな水の恵みと、その一方で災害にも直結する水の荒々しさをテーマに製作してもらいました。防災施設としての一面と、県有施設として地場の工芸技術や魅力を発信しています。
建築をつくるということは、その場所の環境を一変させることになります。この責任は非常に重いと思っています。だからこそ丁寧に地域や歴史の背景や自然環境、人々のコミュニティーを読み解き、場に寄り添う建築をつくるよう日々心掛けています。