連載記事
テーマに沿って10名の建築家・建築士が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第4弾のテーマは「建築と都市 ~周辺環境との関係性~」です。
※毎週火曜日に掲載
深山知子一級建築士事務所・レトノ
テーマ vol.04建築と都市
~周辺環境との関係性~
「都市・街・地域との共感覚」
建築のテーマの中の一つとして新しいコミュニティ、都市との関わり方というものがあります。多種多様な住まい方、地域と繋がるコミュニティの形成の仕方を建築に求められているように感じます。
レトノでは戸建て住宅の依頼が多いのですが、10年ほど前に集合住宅の設計したことがあります。当時計画した集合住宅はそのようなことを考え設計しました。
プライバシーを確保しながら住人同士の緩い繋がりが、心地良い関係性を築くと考え10世帯を4棟に分けて設計しました。塀などを建てることなく、建物をズラすことでそれぞれが向かい合うことなく配置され、建物の距離や上下の高さに変化を与え、窓辺には住人の暮らしぶりが垣間見ることが出来るように工夫しました。ただし、住人同士の目線が交わることはありません。
窓辺から見える住人の好きなもの、例えばインテリア、観葉植物、フィギュア、本などを垣間見ることで、それぞれの楽しい暮らしぶりが分かり、それを元に直接的、または間接的な会話が生まれ、緩い繋がりを形成していくと考えました。
この集合住宅で生まれた住人同士の緩い繋がりは、戸建住宅が地域との間に新しいコミュティを形成していく一つの形だと思いました。
そこから10年ほどの月日は流れ、コミュニティの形成、都市との関わり方が時代背景やSNSの発達に伴いさらに変化していきました。
10年前よりもコミュニティの多様化がさらに進んでいます。少子高齢化、働き方の変化、家族との関係性の変化などからです。また職住一体の住宅を求められることも多くなりました。
こちらは4年ほど前に設計した住宅です。
都市の中で住宅を作るときにはプライバシーの問題もあり、コートハウス的なつくりをすることが多いのですが、ここで考えたのは街との繋がりを意識しています。とは言っても住まう人の感情や心の動きを無視して暴力的に開くのではなく、心が自然と外に向かうような潜在意識に着目して設計しました。
この建物は、吹き抜けに面して大きな開口を設け、その開口の先には植栽スペースとアプローチを挟んで下がり壁を設けています。この下がり壁によって、内包感をベースとした意識が外に拡大していきます。
また下がり壁に植栽の影を落とすという、日本人特有の影遊びをエッセンスとして取り入れています。外からの意識は下がり壁によって住宅内部への関心があまり向かないようになっています。そのお互いの意識の関係性が、地域と緩く繋がる心地よさを生んでいると思います。
そのような住宅内部で感じる緩い繋がりは、意識がグラデーションのように外へと向かい穏やかでありながらも地域、街、都市との密なコミュニケーションが生まれるのではないかと考えています。