連載記事
テーマに沿って10名の建築家・建築士が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第4弾のテーマは「建築と都市 ~周辺環境との関係性~」です。
※毎週火曜日に掲載
鈴木一級建築士事務所
テーマ vol.04建築と都市
~周辺環境との関係性~
「世界を切ったり繋いだり」
私は建築を計画する際に、何度も敷地に出向いてその敷地の特性や周辺環境、時には近所の方々とコミュニケーションをとりながら「この敷地に建築を建てさせて頂きます」という思いで設計しています。
なぜなら、同じテーマで高橋さんが述べられているように、建物と周辺環境の関係性は決して外すことのできない重要な要素だと考えているからです。
今回のテーマである建築と都市ですが、私なりに建築と都市を分ける要素は何かと自問自答した結果、今のところ私の感じる答えとしては、都市が連続する世界で建築は、その世界から切り取られた一部であるということです。
計画したことは無いので妄想の話にはなりますが、砂漠のど真ん中で住宅の設計依頼があったとしたら、第一に考えることは過酷な世界から空間を切り取り、少しでも快適な環境を提供したいと考えると思います。
また、草原の真ん中であれば光や風、風景を切り取るかもしれません。これらは極端な例ですが、砂漠でも草原でも大都会でも富山でも連続した世界の一部をどの様にして切り取るかが建築設計なのではないかと。
また一方で、切り取った瞬間に連続した世界との関係性が生まれるとも感じていますので、どのようにして周辺の世界と繋ぐかが建築を設計する上で重要なテーマとなります。世界を切ったり繋いだりを模索しながら設計している今日この頃です。
カーディーラーに図書館?地域の特性を生かした例
幹線道路沿いに新築するカーディーラーの例をお話しします。施主の思いは地元に根付く販売店として地域貢献を視野に入れ、オープンスペースを備えた新店舗を建設したいとの依頼でした。
敷地の周辺を調査したところ、学校や塾など教育関連施設が多数存在することが分かってきたのですが、カーディーラーとしての空間として切り取った時に、どの様にして地域に必要とされる場所に出来るかを考える日々でした。ある時、施主の方から「図書館」というワードが出たのですが、まさにそれは私たちが考えている周辺環境を繋ぐ神ワードであり、どうにかこのアイディアを活かしたいと考え、切り取り方と繋ぎ方を模索し設計しました。
本来カーディーラーと言えば商品である車を見せることが優先されるため建物の正面に車が並ぶことが多いと思いますが、今回建物の正面には芝生スペースみを計画しています。こうすることで幹線道路の車の往来や歩行者との距離感をコントロールし、図書スペースの居心地よさと内部が見渡せることで入りやすい雰囲気創りを意識しています。
また、内部空間においてもカーディーラーと図書空間を切り取りながら繋げる操作として、天井高さを明確に変化させることと、スケスケの本棚と階段により図書空間ではショールームからは見られているけど気にならない、でもショールームから図書空間を見れば気になるし行ってみたい。といった具合で相乗効果を生み出すよう図書空間とショールームの距離感は空間のレイヤーを操作することで切り取っています。
特に宣伝はしていないのですが、場所の特性を活かし、少しの建築的操作を行うことで結果的にこの建物は周辺の学生や学びを求める人たちの居場所となり、カーディーラーと地域を繋ぐ場所となっています。
このような結果を生むには「自ら周辺の社会を変えてやろう」と思うのではなく、敷地や周辺環境、歴史などに向き合いながら「この敷地に建物を建てさせて頂きます」という姿勢で見ると、敷地本来のポテンシャルに気づくことがありますし、それこそが建築と都市の良い関係性を見付ける近道ではないかと考えています。