連載記事
テーマに沿って12名の建築家が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第1弾のテーマは「建築設計との出会い」です。
※毎週火曜日に掲載
水野建築研究所
テーマ vol.1 建築設計との出会い
「『好き』を見つける」
建築の仕事を意識したのは、10歳くらいの頃。自宅を増築することになり、毎日変わる家の様子を間近で見るようになってからです。学校から帰るとすぐに遊びに出かける生活が、工事現場を眺める生活に変わりました。ついには、見よう見まねで工事中の住まいの図面を描いては、施工していた大工の叔父に見てもらったことを覚えています。半年足らずのことでしたが、今でも鮮明に記憶の中にあります。
中学生になって電車で通学するようになり、周りの世界が広がりました。特に電車の中から眺める建物が好きでした。瞬間的に過ぎていく建物のディテールは、何度も何度も見返すことにより脳内で鮮明な形になり、ある意味建築的なトレーニングの期間だったのかもしれません。
ちょうどその頃、偶然つけたテレビで放送されていた番組で、安藤忠雄さんの「住吉の長屋」が紹介されていました。ミニマルで力強い構成、既定概念に捉われない空間などは見たことのない世界で、大層な刺激を受けたことを覚えています。
また、(あまり大きな声では言えませんが…)土曜日の学校帰りに、月に一度くらいの頻度で友人と映画を観に行きました。外国文化や街並み、時にはSFの世界などの刺激は、想像力を育ててくれたように思います。
高校に入ると真面目に授業に向かうか・・・と言えばそうでもなく、教科書のなかは落書きだらけ。特に海外メーカーの自動車のデッサンが多かったです。それらは市販車ではなく、勝手に想像したショーカーばかりで、自分ではその道へ進むものと思っていました。おかげで友人からは同窓会で会うたびに「絵ばっかり描いてたよね。だから設計の仕事なんだ~」と言われるほどです。
高校を卒業し、大学へ進学しましたが、自分の進路を深く考えず電気系の学科に進んだため、自分の将来が描けず、あらためて建築学科を再受験することにしました。遊び廻る日々を悔い改め、修行僧のように家に籠って黙々と受験勉強していました。おそらく人生で一番机に向かった時かもしれません。
晴れて建築学を学べることになった時、最初に買ったのは建築雑誌でした。これでこの本を読む権利が出来たとばかり、大変嬉しかった事を覚えています。その中には子供の頃に見ていたワクワクがあり、建築の世界が一気に広がりました。そこからはオタク街道まっしぐら。折しも時代はバブル経済絶頂期。自分の「好き」を見つけ、その道に邁進するにはこれ以上ないタイミングでした。
こうして過去を振り返ると、好きなことを見つけて情熱をもって進むことが、いかに大切かという事につきます。目の前に大きな課題が現れた時、そこを乗り越えるには「好き」ということが一番の大義名分だと思います。これから人生の岐路を迎える方は、早く自分の「好き」を見つけて、磨きをかけていってもらいたいと思います。それが私たちと同じ建築の道なら、なお嬉しいです。その良い手本となれるよう、私も日々成長を続けて行きます。