連載記事
テーマに沿って10名の建築家・建築士が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第4弾のテーマは「建築と都市 ~周辺環境との関係性~」です。
※毎週火曜日に掲載
HAJIME YOSHIDA ARCHITECTURE
テーマ vol.04建築と都市
~周辺環境との関係性~
「この都市の中での設計」
Uターンして5年。僕はこの街が好きだけど、なんの疑問もないわけではない。特に都市に対する疑問が建築の設計の始まりになるケースも多い。
「カーポートが街の表情をつくっている風景は豊かなのか?」
5年前広い敷地に平屋で和風の住宅を建ててほしいという依頼があった。車社会のこの街では、玄関を出て、カーポートへ行き、車で移動するのが普通だ。そして、その機能と経済の合理でつくられたカーポートが街のファサードをつくっている。
毎日行う車の乗り降り、家への出入り、その当たり前の行動を少しでも豊かにできないかと考えた。住宅を覆う大きな木の屋根が張り出し、カーポート、ポーチを包み、エントランスへとつながっている住宅を考えた。富山で住むクライアントの生活をデザインした住宅の表情は都市に対して豊かな風景をつくると考えている。

「歴史的な街並みに建つ古いビルは現在進行形の街の空間になり得るか?」
5年前にUターンしてから、ずっと高岡の山町筋にある西繊ビルに事務所を構えている。もともと繊維会社の企業だったビルは既に経済活動を終え、僕が入居したころはまだテナントが入っていない空のビルだった。
地道に活動を続けられていたオーナーやその周辺の方々の力で、現在はほぼ全てのテナントが埋まり、一つのコミュニティができ得る場となっていた中で、1年前にカフェの併設に伴う一階のリノベーションの設計をさせていただいた。ビルの歴史を間近で見ていたからこそ、考えたことは主に3つだった。
この歴史的な街並みの中で古いビルがいかにして文化的な要素を帯び、街の風景の一部になるか。街に開いた活動を続けてきたビルの活動をより発展させられる場をつくれるか。かつて繊維会社だったビルの歴史をリスペクトしたものをつくれるか。
高岡が誇る祭り、御車山祭では赤色が多用されている。近くには赤レンガの旧富山銀行もある。かつて山町付近の座敷の床間には赤が使われていたらしい。都市にはその場所の空気を象徴するような色がある。
そう思って、この設計では赤を基調にし、地元高岡が誇るマテリアルを随所に使い、大きくデッキを張り出して街に開かれた場をつくった。さらにはこのビルの象徴だった「糸」という要素も空間に散りばめた。都市にも単体の建築にも歴史があり、未来へと続く。それらが現在進行形の歴史の一部になり得るかは真剣に考えるべき重要なテーマだと思い、このプロジェクトの設計をした。

「寂れた商店街はどうなっていくのか?」
5年前、高岡の中心市街地にあった大和が撤退し、その地域の活性化を図るための有識者会議が開かれ、僕もメンバーとして参加していた。御旅屋通りの寂れた商店街をこれからどのように再起させるか。その会議でアーケードがある長い通りは、「屋根のある公園」になり得るのではないか、とアイデアが出て、そのデザインを提案した。
パリには都市の中に様々な居場所があった。公園や広場など、目的がなくてもそこで過ごせる場所が都市のヴォイドにあった。皆、お酒とおつまみを持って集まり、思うままに都市の中で過ごしていた。
富山で過ごしていて、多くの人は目的のない場所には行かないし、目的がなくてもたたずめる場が少ないなと思う。もし商店街が一つのランドスケープになれば、屋根付きの広場がつくれるのではないかと、少し夢を見ている。
街は自分の所有物ではないけれど、自分の生活の一部だ。だからこそ、都市を良くするための実践や提案はまだまだ尽きないと思っている。