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連載記事

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ケンチクノワ2

富山を拠点に、県内外で活躍する個性豊かな建築家・建築士10名によるリレーブログ。
テーマに沿って10名の建築家・建築士が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第5弾のテーマは「建築設計の楽しさ」です。

※毎週火曜日に掲載

荒井好一郎建築設計室

荒井(あらい)好一郎(こういちろう)


テーマ vol.41建築設計の楽しさ

「コラボレーションから生まれる楽しさ」

いよいよ、最後のテーマと向き合う時が来ました。このリレーブログのコンセプトからすると、「建築設計の楽しさ」を読者の方々に伝えるのが大きな目的ですから、当然ながら一番大切なテーマとなります。

ここまでの各テーマに対する10人の建築設計者の投稿を私も拝見してきましたが、それぞれの考え方の背景には、その生い立ちやどのような環境で建築を学び、建築設計の実務に携わっていたかということが大きく影響していると感じました。

つまりこの建築設計という仕事においては、その人の人生が自分の作るものに強く影響を与えるわけで、これは「ものづくり」「表現」に関わるような全ての仕事に共通していることです。

これ自体が「楽しさ・面白さ」であることは明確に言えますが、それだと話が終わってしまいますので、私自身の実体験を基にどういう部分に「楽しさ」を見出しているのかを具体的に考えてみたいと思います。

私が最初に建築設計という仕事に強い魅力を感じたのは、設計者としての実務経験をスタートさせた東京の市川総合設計室に在籍していた時です。

その事務所では車で3時間の場所は業務圏内だったので、長野県・山梨県・静岡県あたりの仕事もありまして、そうすると現場に通う車中は師匠である市川さんと二人きりで、現場の事や建築全般のことについてアレヤコレヤと会話しながらの運転となるわけです。

現代の建築をどうとらえるべきか?という話から「建築の解体(磯崎新氏著)」を読んでみると良いよと言って本を貸してくださったり、コルビュジエは「住宅は住むための機械」と言ったけどあれはどういう意味だと思う?という話題で盛り上がったり。

市川さんは当時すでに還暦ちょっと前のご年齢でしたが、大学を卒業してすぐの私に対して素人扱いせずにとても情熱的に接して下さいました。年齢や性別を超えて同じ熱量で語り合える、そんなボーダーレスな部分を感じた時に「自分は素敵な職業を選んだな」と思いました。

市川総合設計室では産直方式で建てる青森ヒバを中心とした国産無垢材を活用した「木の家」の設計を学びました

ちょっと余談ですが、市川総合設計室在籍時のある現場での監理業務でのエピソードについて。

庇を支える部材の寸法について、90mm角と指示していたのが105mm角になっていたのを私が見逃していまして、「見てすぐに分からないのか!」とこっぴどく叱られまして・・・「そんなの分かるわけないじゃないか!」と心の中では逆ギレ気味の私でした。

しかし、その寸法感覚が空間ボリュームを捉える感覚にもつながり、設計者にとってはとても大切なものであることはその後に経験を積み重ねることで強く認識するのでした。設計者としての怠惰が見えた時にしっかりと叱ってもらえたことは今となっては財産です。

アイデアが浮かぶとスケッチを描いてみることが多いのは、市川総合設計室で覚えた手描き製図と繰り返し学んだ寸法感覚が手を動かすことによって呼び起こされるような効果があるから

 

20代は、一から十まで自分の思い通りにしないと気が済まない、そんな感覚で建築設計の仕事に取り組んでいた記憶があります。それから20年くらい経った現在は少し違う景色が見えてきました。

設計・建設のプロセスにおいて「コラボレーション」という意識を強く持つようになったのです。これは大袈裟なことではなく、建築主や施工者の方々、一つのプロジェクトで関わる全ての人との協働で建物は出来上がるのですから、全員の力をしっかりと結集できれば自分の殻に閉じこもってつくるよりもより良いものになるに決まっているのです。

ここからは私の事務所で行う「住宅設計」に特化したお話です。

「分離発注方式」という建設方法に出会って取り組んだことにより、私の頭の中は設計者と現場監督が共存しているような状態になり、建築主の代弁者でありながら工事を取りまとめるコンストラクションマネージャーでもあるというプロジェクトリーダー像に辿り着きました。

建築主・設計者共に職人との距離が近くなるのが分離発注方式です

建築主から出てくる要望(=住まいへの夢)も新しく生まれる建築へのアイデアの種ですから、設計作業は建築主との共同作業だと捉えることができます。そう考えると、ただ自分の設計デザインを押し付ける訳ではないコラボレーションとしての建築主との関係づくりが見えてきます。

住宅設計においては、時間を掛けて建築主と会話することを大切にしています

そして一緒に建物をつくり上げる工事業者(職人)とは協働関係であるのは当然なのですが、各職人の専門的な経験や知恵を最大限に引き出すことで「共同=コラボレーション」という関係にできると考えています。

そのためには一方通行の依頼・指示ではなく、設計段階から相談して一緒に考えて一緒につくるという意識を持つことが大切です。

<造園工事における例>
設計段階から造園業者さんと一緒に計画し建築主へ提案しています。そうすることで、取って付けたようなものではない建築と緑が融合しお互いに高め合うようなデザインが可能となります。

建築主へのプレゼン用に作成した提案スケッチ。造園業者さんと打ち合わせをした上で作成しているので、技術的な部分や工事費についても要所を抑えた実現性の高い内容に出来ています

立体的に提示した方が効果的な計画の場合は、模型を作成して提案することもあります

造園業者・設計者・建築主の三者共同で造園作業したこともあります。ここまでやるのは特別な事例ですが、やるなら徹底的に!というのが思いっきり楽しむ秘訣です

植栽との一体化を目指した玄関ポーチ。雨が当たらない部分についてや落雪の可能性がある部分について設計段階で情報交換できていたので造園業者さんの植栽選定や施工もスムーズでした

切り取られる前提でデザインされた造園計画。地窓状の開口部から見える植栽と天窓から顔をのぞかせる植栽は、建築と造園の息の合ったコンビプレーと言ったところ

<家具工事における例>
家具工事においても造園工事と同じで、設計段階で家具業者さんと共同で計画し、目指す家具デザインの実現性を確認し、いかに建築に溶け込んだ存在に出来るかに注力しています。

① 奥行の長い空間に対して5m以上の長いテレビ台をつくりたいと考えて、A+Aでイメージスケッチを作成して家具業者さんに相談しました

② 家具業者さんが金物やガラスの納まり、材料の合理性を考慮しながら図面化してくれました

③長さ5.2mのテレビ台が空間に一層の奥行き感を与えるデザインが完成しました

建築現場では、多い時は20業種以上の工事業者さんが関わることになりますが、その全員とコラボレーション=共同すると考えた時、こんなダイナミックな共同作業ができる建築設計はなんて素敵で楽しい仕事なのだろうと実感します。

私が思い描く建築設計者の理想像は、建築主と職人たちを主役として輝かせるコーディネーターとしての取りまとめ役です。建物が完成した時に、建築主は自分らしい住まいになったと実感できて、職人たちは自分がつくったと自慢したくなる、そんな気持ちになってもらえたら私は役目を果たせたことになるのです。

設計の狙いが上手くいって一人ほくそ笑むような「楽しさ」も良いのですが、関係者全員で分かち合う「楽しさ」は私にとっては何倍も価値があるので、何とかそこを目指したいなと思い日々の業務に取り組んでいます。

そんな私が現在趣味にしているのがファミリーキャンプで、気持ちの良い自然の中での食事、テントでの就寝など非日常的な部分を子供たちと一緒に楽しんでいます。

キャンプではまず、家族皆でテント設営を行います。私が所有しているのはリビングルーム付きのツールームテントと呼ばれるものなので、気持ちの良い景色にリビングルームを向けるようにと考えると寝室位置も同時に決まってきます。

それから、リビングルームの中に食事をするダイニングスペースをこしらえ、その近くで通路の邪魔にならない位置に調理スペースを設置します。

キャンプでの調理は主に私の役目なのでこの調理スペースにもこだわりがあります。

強火力で2つの同時調理が可能なツインバーナー、調理器具を吊るすハンガーラック、手元で水が使えるウォーターサーバー、いつでも材料が取り出せるようにクーラーボックスも近くに置いて・・・このような感覚でテントと周辺の設置を行っているのですが、あれ?この生活を形作る感じって住宅の設計と似ていますね。

結局、趣味においても建築設計と似通った要素のものを無意識に選択していて、やはりどうにも私はこの「楽しさ」から離れられないようです。

建築設計という仕事にはまだまだ色々なところに「楽しさ」が潜んでいると感じています。

私は今よりもっと年齢を重ねても「既存の価値観に囚われず自由な発想で自分らしい建築設計を追求する」ことを目標にしたいと思っていて、そういう姿勢が「楽しさ」を発見することに繋がるのだと信じています。

荒井好一郎

PROFILE

荒井好一郎建築設計室

富山市水橋山王町262-1
http://arai-arch.net/

荒井好一郎

1976     富山県生まれ
2000     職業能力開発総合大学校 建築工学科 卒業
2000-2004 市川総合設計室(東京都)
2004-2011 草野鉄男建築工房(富山市)
2011-2013 株式会社 創建築事務所(高岡市)
2013-    荒井好一郎建築設計室(富山市)
2019-    富山国際職藝学院 非常勤講師

一級建築士
2級福祉住環境コーディネーター
2級電磁波測定士