連載記事
テーマに沿って10名の建築家・建築士が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第5弾のテーマは「建築設計の楽しさ」です。
※毎週火曜日に掲載
神田謙匠建築設計事務所
テーマ vol.43建築設計の楽しさ
「奮闘の先に」
いよいよ最後のバトンが回ってきました。同じお題でも多彩な切り口で綴られる皆さんの記事は発見と共感に満ちていて、コンペ案を比較するような学びが毎回ありました。今回のお題「建築設計の楽しさ」にもいろいろあり、何から伝えるべきか迷ってしまいます。
この記事を書いているのはちょうどオリンピックの会期中。連日の夜更かしにも慣れてきた頃です。勝利の喜びや敗退の悔しさ。競技者たちの表情を見ていると、集大成とも言えるたった17日間のこの舞台に至るまで、その裏にある膨大な練習量や両肩にかかるプレッシャーの重さに考えが巡ります。
長く苦しい練習の中で、0.01秒の記録更新や新しいトリックの成功に日々のモチベーションを見出し、その積み重ねの上で手にした勝利にこそ最大の喜びとやりがいを感じるのではないでしょうか。
こんなに劇的ではないかもしれませんが、「建築設計の楽しさ」を得るまでの過程も似ていると思います。一つの建築の完成に至るまで、短くても1年近く。長いと2年、3年とかかる長丁場です。
ケンチクノワでこれまで語ってきたプロセスも踏まえながら、三歩進んで二歩下がるの繰り返し。難しい課題に挑戦し泥臭く奮闘した建築にこそ、その対価にふさわしい達成感や喜びが得られます。
そして建築は、利用されて初めて意味を持ちます。山あり谷ありの完成までのプロセスを思い起しながら、思い描いた様に、時には想像を超えた使われ方をされている建築の姿を目にした時、最大瞬間風速の楽しさが込み上げてきます。
第1回目に書いた「建築設計との出会い」から30年弱・・・数字にするとえらく長く見えますが、ずっと建築一筋だった訳ではありません。
例えば、高校はせっかく建築学科に入ったのに、ラグビーに夢中で建築の勉強はむしろ重荷でした。だけど、今でもそこで培った丈夫な身体と精神は建築設計の仕事を支えてくれているし、奮闘の先にこそ楽しさがあることを知りました。
建築は総合雑学なんだと思います。勉強に励むことも、スポーツに打ち込むことも、趣味にのめり込むことも、コンペに挑戦することも、バイトで苦労することも、すべて建築設計に大切な財産になります。
一見遠回りだと思えることも、無駄になることなんてありません。学生の皆さんには、この建築の懐の深さを信じて、好きな事に没頭して個性を拡げていってほしいと思います。その先にはきっと、自分にしかない楽しい建築の世界への道が拓けています!