連載記事
テーマに沿って、12名の建築家が建築設計に対する想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
2周目のテーマは、「完成までのプロセス(人との出会い)」です。
※毎週火曜日に掲載
青山建築計画事務所
テーマ vol.2完成までのプロセス(人との出会い)
「家族に誇れる仕事」
大学生時代に読んだ本で「建築ってこんな素敵なことがあるんだ」と感動したことがありました。それは前回の私の拙文の中でもお話しした建築家今井兼次先生の書かれた「建築とヒューマニティ」という本の中に書かれていたことで、先生が設計された早稲田大学図書館建設中の話しです。少し長くなりますが本から転載します。
「正面大玄関ホールの真白い六本の円柱を皆さんはご覧になったことと思います。この六本の柱を仕上げるのに一つの物語があります。残り少ない時間に、若い二人の左官職は励みにはげんで仕事にかかっていたのです。あるときは蝋燭の燈火で懸命に働かねばならない事もありました。二人は二本、三本と、日を追って柱を白く塗り上げていったのです。塗り上げてしまう最後の六本の日が来ました。
この日の朝、年上の職人は正装した自分の妻と三人の幼い子供を連れてこの大ホールの一隅の茣蓙の上に座を占めました。この左官職は若い職人と一緒に相変わらず二人で働き続けて最後の柱は遂に仕上げられました。希望をもって働いた左官職は終日そばに座している妻子とともに、今まで自分たちが仕上げて来た六本の白い柱を飽かず眺めて心安らかな姿でホールから去って行きました。この光景はいじらしいほど、私には有難いものでした。」(建築とヒューマニティより)
職人の家に生まれ育った私はこの話が大好きです。いつか自分の仕事でもこんな場面に出会えればいいな、と思いながら建築の設計の現場を重ねていました。そうしたら、その想いが叶ったのか、同じ場面に出会ったのです!
私が設計したある住宅で、大工さんが奥さんと子ども達を連れてきて自分の仕事ぶりを見せていました。私が「どうしたの?」と訊いたら、「こんなに難しい仕事は滅多にない。仕事が楽しいですし、自分にも出来るんだってところを家族に見せたいんです」「この現場の話をしたら、家族がぜひ見に行きたい!」と。
その後も左官屋さん、板金屋さんが家族に自分の仕事を見せている光景を3度ほど目にしました。そして、その光景にはいずれも共通点がありました。施工にあたり、①設計者が大切に思っていること②設計者と職人がお互いの意見を充分に出し合って施工に入ること。この2つを自分の家族に丁寧に説明していました。
工事の関係者がお互いの理解を深め、認め合って同じ意識で仕事を共有する。プロセスが難しい仕事であっても、お互いをリスペクトし、とても良い関係を築けば、乗り越えることが出来るのです。これぞ建築の仕事の醍醐味です!色々な職人さんとの出会いは建築という仕事の大きな喜びであり、建築は完成するまでのプロセスが幅広く、様々な人材との出会いの宝庫です。出会いを楽しむことが出来れば、こんなに素敵な世界はないと思います。