連載記事
テーマに沿って10名の建築家・建築士が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第5弾のテーマは「建築設計の楽しさ」です。
HAJIME YOSHIDA ARCHITECTURE
テーマ vol.50建築設計の楽しさ
「穴を掘る」
ある日突然穴を掘りたくなった。それで芸術祭のコンペに応募し、入選し、本当に穴を掘ることになった。大地讃頌をテーマに、母なる大地から生まれたような、幾何学的な穴。コンセプトが先行していて、頑張って穴を掘れば出来ると安易に考えていた。
だが、進めていくと普通に穴を掘ってもこの形には出来ないことに気づいた。むしろ能天気に人力で穴を掘るのは不可能に近かった。大地の中で形を維持し、赤く色付いた穴をつくるには、土圧に耐え得る強力な構造体が必要だと分かり、この穴をつくるプロセスが大きく方向転換した。
掘削し、構造体を挿入し、埋め戻し、内部に下地をつけて、仕上げる。最初はアートをつくるはずだったが建築をつくるのと同じプロセスになった。
それから数年後にまた穴を掘りたくなった。今度は富山の自然と向き合おうとも思った。今度はインスタレーションではなく、野生の空き地を整えるランドスケープをつくる意識に変わった。
今年は内部空間をつくっている。穴を掘り、柱を立てて、中心があり、地面と一続きになっている。竪穴住居と同じ構成である。縄文に思いを馳せ、休日の度に山へ行き数人の協力者とともに制作中だ(もう少しで完成)。自分の内にあるものを素直に出したこの作品も、いつか機能のある建築へと連鎖するだろうか。
なぜ穴を掘っているのかよく聞かれる。
僕たちの仕事は言葉が通じなくてもビジュアルで会話できる。ビジュアルが全て語ってくれる。だから辺境の島国のとある地方のよく分からない山奥でつくったものでも、どんなに小さいものでも、世界に届くものはつくれる。ひとつはそんな想いでつくっている。これらをアートと捉える人もメディアもあれば、ランドスケープや建築とも捉えられることも多い。そんな多様性と大きな器が「建築」にはあり、面白い。
様々な仕事をしながら、ふと建築とは何か、デザインとは何かを考える時がある。僕たちの仕事は経済原理に従い、何も問わずとも「良い感じ」を演出すれば仕事として成立しビジネスになる。空間の図式を面白パズルのように変えること、単価に置き換えられている表面を上手く組み合わせること、そうやって小さな相対性の中からできる差異が個性なのだろうか、、と思うことがある。
その悶々とした思いから、極端に、原初に立ち返って穴を掘りたくなったのかもしれない。土は本来、マッシブで重くいのちを育むし、石は一つとして同じ形や模様のものがなく、地上に出るとそれ自体がものすごいパワーを発している。それらが 左官やレンガとなり、タイルになり、人の知恵でうまく加工したのだなと当たり前のことに山で気づく。ひたすら山に通い、自然の中に身を置いて創作していると、かつての人間たちが何を考えていたのか気になり、文化的でも商業的でも現在の建築の形や仕組みが人の営みの歴史から地続きであるという当たり前のことにまた気づく。僕は今富山の風土からたくさんの気づきを得ている。
創作は連鎖する。生み出したもの一つ一つが自分になり、新しい人と仕事と出会い、また自分が更新される。そして自分にしかつくれないものがあるとも思っているし、まだ誰も見たことのないものをつくりたいとも思っている。山へ行き穴を掘っていることそれ自体が、そしてその穴が進化したものが、きっとそういうものにつながると思い、掘っている。
僕自身、学生時代から変わらず色々なことを試しながら、時にはみ出し、時にど真ん中を行き、建築をつくっているのだが、こんな風に生きていること自体がやっぱり楽しいのだと思う。
最後にこのような素晴らしい連載にお声がけをいただいた森口さん、本当にありがとうございました!